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福岡地方裁判所 昭和33年(ヨ)140号 判決

申請人 吉田敬之 外四名

被申請人 福岡県職員互助会

主文

被申請人互助会の評議員会が申請人らに対し、昭和三十三年四月一日附の決定に基き、同年五月一日なした除名の効力を停止する。

被申請人互助会は、申請人らがその会員として給付の請求、施設の利用、その他の権利の行使をなすことを妨げてはならない。

申請費用は、被申請人の負担とする。

事実

申請人ら代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その申請の理由として、

一、(一)被申請人互助会は、昭和二十四年八月、福岡県職員の相互共済及び福利増進のために、福岡県職員たるその会員に対し、福利、厚生、医療等に関する資金の給付、資金の貸付及び施設等の経営を行うことを目的として結成された社団であるが、その後、昭和二十九年四月三日公布施行の「福岡県職員及び福岡県公立学校教職員の共済制度に関する条例」(福岡県条例第二十七号)及び同年九月十一日公布施行の「福岡県職員互助会運営に関する規則」(福岡県規則第六十六号)(以下単に「条例」及び「規則」という)によつて規制されるに至つたものである。

(二) 申請人らは、いずれも福岡県職員であつて、申請人吉田敬之、同下司和男及び同樗木三郎は被申請人互助会の結成とともに、申請人安武敏也は昭和二十八年二月十七日、同塚本桂は昭和二十六年七月一日福岡県職員たる身分を取得するとともに、その会員となつたものである。

二、ところで、被申請人互助会の評議員会は、昭和三十三年四月一日の会議において、申請人らが末尾記載のビラを配布して被申請人互助会をかく乱しその名誉を毀損したとの理由により、福岡県職員互助会規約(以下「規約」という)第七条第一項第四号に基き、「申請人らが昭和三十三年四月三十日までに申請外福岡県庁職員組合(以下「組合」という)に復帰しないときは、申請人らを被申請人互助会から除名する。」旨の決定をなしたが、申請人らは、右期限までに組合に復帰しなかつたので、右決定によつて、同年五月一日申請人らに対する除名が確定するに至つた。

三、しかしながら、右除名の決定は以下の理由によつて無効である。

(一)  本件除名の決定は、条例違反の規約第七条第一項第四号に基いてなされたものであるから無効である。

(1)  条例第一条には、「県職員(非常勤の職員を除く)及び県公立学校教職員(以下「職員」と総称する)は、相互共済及び福利増進を目的とする互助会(以下「互助会」という)を組織する。」と定められているので、福岡県の職員は互助会を組織し、その会員とならなければならないことは明らかである。それ故、被申請人互助会もその趣旨に則り、規約第六条において、「職員は第二条各号に掲げる職員となつた日から会員の資格を取得する。」と定め、また福岡県職員互助会規程(以下「規程」という)第二条において、「規約第二条(会員の範囲)各号に掲げる職員となつた者は、発令の日から十四日以内に会員申告書(様式第一号)を互助会理事長(以下「理事長」という)に提出しなければならない。」と定め、以て、規約第二条各号に掲げる県職員、即ち(1)知事及びその補助機関たる職員、(2)監査委員の事務を補助する職員、(3)議会事務局の職員、(4)法律若しくはこれに基く命令又は条例、若しくは規則により県に設置された委員会の職員、(5)福岡県に属する国家公務員たる職員については、会員資格の自動的取得と強制加入の処置をとり、脱退の自由を認めていないのである。

(2)  そして、このことは、次のような条例制定の経緯に徴しても明らかである。即ち、

地方職員に対する共済制度としては、国家公務員共済組合法第八十六条により地方職員共済組合があるのであるが、この共済組合は、同条に「当分の間」と規定されているとおり地方職員の共済制度に対する暫定措置として設けられているにすぎない。しかして、同法以後に公布施行された地方公務員法の第四十三条には、地方公務員に対する共済制度はすみやかに実施されなければならない旨定められているので、右暫定措置たる地方職員共済組合以外に、地方公共団体は、すみやかに独自の立場において職員の共済制度を確立しなければならなかつたのである。そこで福岡県においては、前述のように昭和二十九年四月三日条例が公布施行されたのであるから、たとえ互助会が昭和二十四年八月結成されるにあたつて組合が大きな役割を演じ、その厚生部が発展したような形をとつたとしても、右条例の公布施行後は、互助会は、前記地方公務員法第四十三条の規定に則つた共済制度実施のために組織されたものとして、その性格が変更したものというべきである。

それ故、被申請人互助会が右のような性格の組織となつた以上、地方職員共済組合に準ずるものとして、会員の資格そう失については国家公務員共済組合法第十三条に定める事由に限定されるべきであつて、福岡県職員たる身分を有する限りは会員の資格をそう失せしめることはできないといわなければならない。

(3)  しかるに、規約第七条第一項第四号には、「会員が評議員会の決定により資格をそう失したときは、会員の資格を失う。」旨規定されているのであるから、この条項は明らかに条例に違反し無効のものというべきである。

よつて、右規約の条項に基いてなされた本件除名の決定も当然無効である。

(二)  仮に、右規約の条項が有効であるとしても、本件除名の決定は、申請人らが規約に定められた除名事由に該当しないのになされたものであるから無効である。

評議員会の決定により会員の資格をそう失せしめるということは、会員にとつて極めて重大なことであるから、規約第九条に定められた(1)規約と機関の決定に服する義務、(2)掛金を納入する義務に違反した場合にのみ、評議員会は会員を除名しうると解すべきである。しかるに、申請人らには、右のような義務違反は何ら存しないのであるから、本件除名の決定は無効であるといわなければならない。

(三)  仮に、評議員会が右規約に定められた義務違反以外の事由によつて会員を除名できるとしても、その事由は、互助会の性格上、真に会員たるに相応しからずとする特別の事由に限られるべきであつて、評議員会構成上の個人的恣意に左右せられるべきものではなく、申請人らが、本件除名の決定の理由とされているビラの配布についても、申請人等はビラを個人の資格で配布したものではなく、仮に配布したものとみなされるとしても、右ビラには互助会の名誉を毀損した記事を含んでいないのは勿論他に申請人らに何ら互助会の会員たるに相応しからずとする事由も存しないから本件除名の決定は、申請人らが何ら除名に価しないのになされた著しく不当なものであつて、無効である。にもかかわらず評議員会が敢て本件除名の決定をなすに至つた事情は次のとおりである。

(1)  本件除名の決定がなされるに至るまでの経緯

申請人らはいずれももと組合の組合員であつたが、同組合の執行部はいたずらに理論斗争や政治的運動に走り、組合員の切実な経済的要求や職場の要求を取り上げずにいるという有様であつた。そこで、このような執行部の在り方に不満をいだいた申請人吉田敬之は、自らこれを是正すべく昭和三十二年九月九日行われた組合執行委員長選挙に立候補したのであつたが、対立候補側からの「知事のひも付」とか「反動」とかいう宣伝と、選挙規則の不備を利用した組織を通じての弾圧によつて遂に落選した。しかし、右選挙には組合の選挙規則及び同施行規則違反の事実があつたので、同申請人は当時同一職場に勤務していた申請人安武敏也とともに同月十七日組合の選挙管理委員会に対し選挙無効の異議申立をなしたが、同年十月十五日右申立を棄却されたため、更に、同月二十八日組合総会に選挙無効の提訴をなしたところ、同月三十日開催された組合定期総会において右提訴もまた横暴な組合執行部の議事運営によつて否決されてしまつた。

かくて、申請人吉田敬之は所期の目的を達成することはできなかつたが、当時漸く組合内部に起つていた組合の在り方に対する反省と、執行部に対する批判の声は、同申請人の委員長立候補から組合総会への提訴に至るまでの勇敢な行動によつて、啓発されて更に大となり、申請人らを初めとして組合に加入していることを潔しとしない者が数多く現われ、遂に昭和三十二年十一月に至り約三百名に上る組合員が組合に対し脱退届を提出し(申請人樗木は同月十二日、申請人吉田及び同安武は同月十八日、申請人下司及び同塚本は同月十三日から十八日頃までの間に脱退届を提出した)、同年十二月初旬には組合脱退者によつて福岡県職脱退者連絡協議会が結成され、その会長には申請外村上憲隆、副会長には申請外村田茂及び申請人吉田敬之が選出されるに至つた。

そこで、右のような事態に狼狽した組合執行部は、脱退届を受理せず、極力脱退届を撤回するよう説得する一方、申請人らを集団脱退の主謀者とみなして組合の分裂を工作する反動の徒ときめつけ脱退を認めず、かえつて、部内に策動して昭和三十二年十二月十日開催された組合の評議員会において申請人らを組合から除名する処分に付し、更に組合を脱退する者は被申請人互助会の会員たる資格をも剥奪されその利益をうけることができなくなるものであると宣伝し且つ脅かすようになつた。

このような情勢が継続している間に、被申請人互助会の評議員会が昭和三十三年三月三十一日「福岡県職員互助会掛金率の臨時特例に関する規約の一部を改正する規約の制定について」及び「昭和三十三年度福岡県職員互助会歳入歳出予算について」の二議案のみの審議を目的として理事長により招集開催されたのであるが、右評議員会において、被申請人互助会の本庁及び福岡支会より共同で、「互助会の会員資格のそう失について」と題する動議が提出され、その提案理由は、「申請人ら五名が組合を除名されるまでにとつてきた行為は、互助会設立趣旨の相互扶助の精神にかけ、組合が組合員の生活向上、福祉厚生活動の重要な場所として互助会を設立した功績を無視し、互助会の趣旨に違反したことは互助会組織のかく乱を行つたもので互助会の名誉を毀損した。」というのであり、これに該当する申請人らの具体的な行為としては、互助会についてのビラを配布したということであつた。そこで評議員会においては、右提案理由について論議はされたけれども、問題のビラについては配布された事実は勿論、その内容について何ら検討されず、果して申請人がビラの配布によつて互助会の名誉を毀損したものであるかどうかを深く判断することなく、遂に翌四月一日前記のような内容の本件除名の決定がなされたのである。

(2)  ところで、申請人らが配布したビラというのは、前記福岡県職脱退者連絡協議会が昭和三十二年十二月五日福岡県庁各出先機関の総務課に対して職員に回覧方を依頼した「県職脱退組合員と互助会の関係はどうなるか」と題する末尾記載内容の印刷物(甲第十五号証の一、二)を指すもののごとくであるが、右印刷物の内容は「組合と被申請人互助会とは別個の団体であつて、組合を脱退したからといつて、直ちに右互助会を除名される理由はない)という趣旨のものであつて、何ら被申請人互助会の組織をかく乱しその名誉を毀損するような内容のものではない。しかも、右印刷物は申請人ら個人が配布したものでは勿論ないし、仮に右連絡協議会の一員として申請人らが配布したものとみなされるとしても、その内容は右の通りであるから、右配布行為は何ら除名に価するような被申請人互助会の名誉を毀損する趣旨のものではなかつたのである。

(3)  それにも拘らず被申請人互助会の評議員会が申請人らに対し本件除名の決定をなしたのは、前記除名決定の内容及びその決定に至るまでの経緯に徴しても窺えるように、次のような被申請人互助会乃至同会の評議員会と組合との関係に基因するものといえる。即ち、昭和二十四年八月被申請人互助会が結成されるに際し組合が大いに貢献したとはいえ、本来両者は何ら関係のない別個の団体なのであるが、組合は被申請人互助会の機関を通じて同会に大なる力を持つているのである。たとえば、被申請人互助会の規程第二十二条によると、常務理事二名のうち一名は組合員委員長の職にある者が当然になり、理事十名のうち五名は組合役員の中から組合の推せんする者がなり、監事五名のうち三名は組合の中から組合の推せんする者がなることに定められている。更に、同規程第二十四条によると、評議員は評議員の選出区域及び定数表により所轄区域内会員の三分の二以上の無記名投票による選挙によつて選出することに定められているが、この選出区域は組合の支部設置区域と殆んど同じであるから、当然組合の支部長乃至組合の有力者が被申請人互助会の評議員となる関係にある。

(4)  以上これを要するに、申請人らが組合の在り方に疑問をいだいて脱退届を提出したことに対する措置として、組合執行部は、前記のように申請人らを組合から除名する旨の処分をなし、更に被申請人互助会の評議員会が事実上組合の有力者で構成されていることを奇貨として、本来組合とは関係のない被申請人互助会からも申請人らを除名しようと策動し、その結果、たまたま昭和三十三年三月三十一日開催された同会の評議員会において、申請人らに何ら除名に価する事由がないのに拘らず本件除名の決定がなされたものというべきである。

従つて、本件除名の決定は、申請人らに除名に価する事由即ち被申請人互助会の会員たるに相応しからざる特別の事由が何らないのになされた著しく不当なものであるから無効である。

四、そこで、申請人らは、被申請人互助会に対し本件除名の決定の無効確認の訴を提起したのであるが、申請人らは、福岡県職員の身分を有していても、右本案訴訟期間中、本件除名の決定によつて被申請人互助会の会員たる資格を喪失したものとして取扱われるので、その間、同会の事業たる公舎、保養所、月賦販売所などの施設の利用は勿論、医療費、貸付金、災害見舞金等の給付の原因が生じまた役員の改選等が行われた場合にも、会員としての権利を行使しえないこととなる。これは、申請人らにとつて苦痛、不名誉なことであるとともに、これによつて申請人らは後日本案訴訟において勝訴の判決をうけても回復しえない損害を蒙るおそれがある。

よつて、本件仮処分の申請に及んだ。

と述べた。

(疏明省略)

被申請人代理人は、「申請人らの申請を却下する。」との判決を求め、答弁として、

一、申請の理由一、二の各事実を認める。

二、申請の理由三の各主張を争う。

(一)  規約第七条第一項第四号は条例に違反しない。

被申請人互助会は、組合が昭和二十四年八月当時の福岡県知事杉本勝次と教次の交渉の結果組織結成されるに至つた福岡県職員の自主的融和共済組織であつて、その目的は、条例第一条に規定するように会員の相互共済及び福利増進にあり、その規約は、条例第五条に基く規則第三条に規定するように、全く民主的な方法で定められたものである。しかも規約は、昭和二十四年八月被申請人互助会が結成されると同時に制定されたもので、条例及び規則は、その数年後の昭和二十九年に被申請人互助会の存立基礎を強固ならしめその存在を権威付ける目的をもつて制定されたものに過ぎないのであつて、地方公務員法第四十三条に基ずく共済制度確立のため制定されたものではないのである。

それ故、条例の制定によつて、被申請人互助会が職員の自主的融和共済組織たる従来の性格を変更したものではない。従つて、福岡県職員たる者は必ず被申請人互助会に加入することを強制され脱退の自由を認められないものとなつたと解することはできないから、規約第七条第一項第四号の規定が条例に違反するということはできないのである。

(二)  そして、右規約第七条第一項第四号は、同第九条に定められている会員の義務違反の場合にのみその資格をそう失せしめうるという趣旨に狭く解すべきではなく、義務違反の場合のほか予想しえない事態が惹起した場合にも対応しうるよう広く評議員会の良識に委ねた裁量規定である。

(三)  申請人らは除名に価し、本件除名の決定は正当であつて何ら違法の廉はない。

被申請人互助会は、自主的融和共済組織であるから本来会員融和を根本精神としているのであるが、申請人らは互助会に関して末尾記載内容の虚偽のビラ、文書を会員に配布し、以つて会員の一体的精神融和に亀裂動揺を与えんとするなど、被申請人互助会の根本精神に反する行為をなしたので、評議員会は、民主的な運営のもとに論議を尽した結果、多数決をもつて申請人らを会員たるに相応しからずと認定し、申請人らに充分反省の時間的余裕を与えた停止条件付除名の決定をなしたのである。

それ故、本件除名の決定は、申請人ら主張のように評議員会構成員の個人的恣意に基くものでは毛頭なく、正当になされたものであつて、何ら違法の廉はない。

三、申請の理由四の主張を争う。

と述べた。

(疎明省略)

理由

一、被申請人互助会が昭和二十四年八月、福岡県職員の相互共済及び福利増進のために福岡県職員たるその会員に対し、福利、厚生、医療等に関する資金の給付、資金の貸付及び施設等の経営を行うことを目的として結成された社団であること、そしてその後、昭和二十九年四月三日公布施行の条例及び同年九月十一日公布施行の規則によつて規制されるに至つていること、申請人らがいずれも福岡県職員であつて、申請人吉田敬之、同下司和男及び同樗木三郎は被申請人互助会の結成とともに、申請人安武敏也は昭和二十八年二月十七日、同塚本桂は昭和二十六年七月一日福岡県職員たる身分を取得するとともに、その会員となつたものであること、並びに、被申人互助会の評議員会が昭和三十三年四月一日の会議において、申請人らが末尾記載内容のビラを配付して被申請人互助会をかく乱しその名誉を毀損したとの理由により、規約第七条第一項第四号に基き「申請人らが昭和三十三年四月三十日までに組合に復帰しないときは、申請人らを被申請人互助会から除名する。」旨の決定をなしたこと及び申請人らが右昭和三十三年四月三十日までに組合に復帰しなかつたので、右決定に従つて同年五月一日申請人らに対する除名の効力が生じたこと、については当事者間に争がない。

二、ところで申請人は、右規約第七条第一項第四号は前記条例に違反し無効であるから、これに基いてなされた本件除名の決定は無効であると主張するので以下検討する。

(1)  右規約第二条第二項後段には「県職員でも評議員会の決定により会員の資格を認められない者は互助会の会員となることができない」旨規定し、同第七条第一項第四号には「会員が評議員会の決定により資格をそう失したときは会員の資格を失う」旨規定している。而して、成立に争のない乙第一号証によると、規約には条例の制定以前より右各条項と同趣旨の規定があつたことが認められるので、先づ被申請人互助会の沿革についてみるに、成立に争のない甲第一号証、同第十三号証、乙第一号証に、証人野口勝秋、同古賀耕吉、同弘岡庸夫、同氷室勇吉及び同波多江強之助の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、組合員は、昭和二十一年二月福岡県庁(本庁各廨)に勤務する職員を組合員とし、組合員の労働条件の維持改善その他経済的社会的地位の向上などを実現することを目的として結成されたが、昭和二十四年当時は組合員たりうる職員約七、八千名のうち組合員として組合に加入していた者は約四千五百名にすぎなかつたこと、そこで、当時の組合関係者は、職員の福利、厚生等の施行の充実のためにも、また組合の組織の拡大強化を計るうえにも、職員の福利厚生等を目的とする組織を設けようと考え、当時の福岡県知事杉本勝次と交渉した結果、福岡県より職員の福利厚生のために補助金の交付を受けることとなり、昭和二十四年八月一日規約が制定され被申請人互助会が結成されたこと、組合関係者は、組合の組織の拡大強化という見地より、被申請人互助会に加入する者は必ず事前に組合に加入することを要するという建前にしたいとの希望を持ち、また互助会の結成にあたつては組合の厚生部が発展したような形をとつたのであるが被申請人互助会は、福岡県より補助金の交付をうける関係上、組合員のみでなく非組合員をも含めた県職員全員を対象とし、その相互共済及び福利増進を目的として結成されたものであること、ところが、その後、組合員たりうる県職員のうちにも互助会に丈加入し組合には加入しない者があつて、組合関係者が互助会結成当時抱いていた希望と反する傾向が生じたこと、そこで、組合関係者は、これに対する措置として、被申請人互助会の意思決定機関である評議員会が主として組合関係者によつて構成されているところから、規約を改正して(1)評議員会の決定による会員の資格審査、(2)評議員会の決定による会員の資格のそう失の二条項を新たに設けようと考え、昭和二十五年十一月一日規約を改正して右二つの条項を設けたこと、なお、その際知事副知事などの非組合員たる県職員は互助会員より除外すべきではないかとの意見もあつたが、右新条項の運用によつて実質上の結果をもたらすことができるとして、特に規約に成文化しなかつたこと、かくして規約に規定されるに至つた右二つの条項が、現在なお前記のように規約第二条第二項後段及び第七条第一項第四号の各規定として残存しているものであることが認められ、以上の認定を左右するに足りる疏明はない。

右認定の事実によると、条例が公布施行されるまでは、被申請人互助会は規約だけにその存立の基礎をおき、これによつて規制されていたために、一面では非組合員をも含めた県職員の相互共済及び福利増進を目的としながらも、他面では前記二つの条項によつて、県職員たるに拘らず会員としないことができるとともに会員の資格をそう失せしめることもでき、その運用次第によつては組合員のみを対象とした互助会となる可能性を持つていたが、右二つの条項が規約に規定されていた以上その効力を否定することができない状態にあつたものというべきである。

(2)  ところが昭和二十九年四月三日前記条例が公布施行せられ同年九月十一日前記規則が公布施行になつた。条例第一条は、「県職員(非常勤の職員を除く)及び県公立学校教職員(以下「職員」と総称する)は、相互共済及び福利増進を目的とする互助会(以下「互助会」という)を組織する。」と規定している。そして前顕乙第一号証によれば、規約第一条はもと「本県職員の相互共済及び福利増進を図るため福岡県職員互助会を設ける」と規定していたのを、昭和二十九年一月一日(昭和三十年三月三十一日開催の評議員会において遡及議決)現行の通り即ち右条例及び規則により組織された福岡県互助会の運営はこの規約の定めるところによる旨改正された事実を認め得べく、また条例第三条第二項には「県は、毎年度予算の範囲内で互助会に補助金を交付することができる。」、第四条に「知事又は県教育委員会は職員を互助会の業務に従事させることができる。」と定め、更には規則第六条において「互助会は毎年六月前年度の事業報告書及び収支決算書を知事に提出しなければならない。」と定めている。即ち、被申請人互助会が福岡県民全体の奉仕者たる県職員全員の相互共済及び福利増進を目的とした組織であるからこそ、福岡県は、これに補助金を交付し(成立に争のない甲第十七号証によると、昭和三十二年度昭和三十三年度とも一千万円)、その職員を被申請人互助会の業務に従事させ、一方被申請人互助会に対し事業報告書及び収支決算書を知事に提出すべき義務を命じて、これに関心を示しているのである。

従つて、県職員たる者は、当然被申請人互助会を組織する一員としてその会員とならなければならず、ただ、互助会が相互救済を目的とする保険経済である性格上、保険経済の面からみて加入させることを不可能又は不適当とする職員、例えば常時勤務に服しない者及び臨時に雇傭される者は、その会員たりえないといわれなければなならい。

さればこそ、規約第六条は「職員は第二条各号に掲げる職員となつた日から会員の資格を取得する。」と定め、また規程第二条は「規約第二条(会員の範囲)各号に掲げる職員となつた者は、発令の日から十四日以内に会員申告書(様式第一号)を互助会理事長(以下「理事長」という)に提出しなければならない。」と定め、規約第二条第一項各号に掲げる県職員即ち(1)知事及びの補助機関たる職員、(2)監査委員の事務を補助する職員、(3)議会事務局の職員、(4)法律若しくはこれに基く命令又は条例、若しくは規則により県に設置された委員会の職員、(5)福岡県に属する国家公務員たる職員となれば被申請人互助会の資格を自動的に取得するものとするとともに、強制加入の処置をとり加入しない自由を認めていないのである。

以上要するに、被申請人互助会は、条例制定後はこれに基いて設けられたものとしての性格をもつに至つたことは疑の余地がない。

(3)  次に、右のような県職員と被申請人互助会との関係を同会の機能の面から考察してみる。

被申請人互助会は前記のように、職員の相互共済及び福利増進を目的とし、福利、厚生、医療等に関する資金の給付、資金の貸付及び施設等の経営を行う(条例第二条)ものであるが、具体的には規約第四条第一項に掲げる事業即ち(1)医療補助金の給付、(2)死亡弔慰金の給付、(3)出産見舞金の給付、(4)乳児哺育補助金の給付、(5)傷害見舞金と災害見舞金の給付、(6)退職生業資金の給付、(7)結婚資金の給付(8)疾病又は負傷の予防と治療に関する施設の経営、(9)物資購買、販売に関する事項、(10)その他福利増進に関する事項、(11)厚生慰楽に関する事項、(12)前各号の外、評議員会に於て必要と認めた事項を行うのである。

ところで、国家公務員共済組合法第八十六条によると地方職員は当分の間同法に基いて設けられた組合の組合員となる旨規定せられているので、福岡県職員は被申請人互助会とは別個に当然その共済組合の組合員となつているところ、共済組合も、組合員又はその被扶養者の疾病負傷廃疾死亡等に関して、保健給付、退職給付、廃疾給付、遺族給付、罹災給付、休業給付を行い(同法第十七条)、その外組合員の福祉を増進するため、(1)組合員の保健及び保養並びに教養に資する施設の経営、(2)組合員の利用に供する財産の取得、管理又は貸付、(3)組合員の貯金の受入又はその運用、(4)組合員の臨時の支出に対する貸付、(5)組合員の需要する生活必需物資の買入又は売却等の福利及び厚生に関する事業を行うことができる(同法第六十三条)のである。

それ故、被申請人互助会の事業内容は地方職員共済組合の事業内容とその項目において重複するものがあるが、それも例えば保健給付についていえば被扶養者が療養をうける場合共済組合は費用の半額を負担し又は支払うにすぎないので(同法第三十二条)、残額は職員において支払わなければならないことになるが、被申請人互助会は医療補助金の給付として共済組合が医師に支給する額と同額を支給するので(規程第十一条)、職員は負担を免れることになるなど、共済組合の事業の補充的な性格を有し、また結婚資金の給付など共済組合には存しない独特の給付をもなしているので、共済組合と被申請人互助会とがそれぞれの事業を行うことによつて、はじめてより完全な福岡県職員の相互共済及び福利増進の目的が達成される関係にあるのである。ちなみに、成立に争のない甲第十七号証によると、被申請人互助会の昭和三十三年度予算の総額は四千五百三十一万二千六百円であるが、うち給付費として合計三千八百四十九万五千九百円、事業費として合計四百十一万七千九百円が計上されていて、県職員の相互共済及び福利増進の役割を果しつつあることが認められる。

されば地方職員共済組合の存在は、被申請人互助会の性格を前段のごとく解するになんら妨げとなるものではなく、却つて前記のごとく後者は前者を補充する機能的な面よりしても、被申請人互助会は地方職員共済組合に準じた組織としてその会員たる資格の取得、そう失については共済組合員たる資格の取得、そう失(国家公務員共済組合法第一条、第十二条、第十三条)と同様に解するのが相当である。

(4)  果して、然らば福岡県職員の身分を取得した者は、常時勤務に服しない者及び臨時に使用される者でない限り当然に被申請人互助会員たる資格を取得し、県職員たる身分を有する限りはその会員たる資格をそう失せしめられることはないというべきであつて、右の判断と相容れない規約第七条第一項第四号の規定は、条例に違反し無効であると解すべく、右規定に基いてなされた本件除名の決定は爾余の争点につき判断を加えるまでもなく既に右の理由によりまた無効といわなければならない。

三、そこで仮処分の必要性について考えてみるに、前記認定のような被申請人互助会の事業内容に徴し、申請人らが本件除名の決定によつて被申請人互助会の会員たる資格をそう失したものとして取扱われ、同会の事業たる各種施設の利用や給付原因が生じた場合における権利の行使ができないことは、申請人らに著しい損害を与えるおそれがあると認められる。

よつて、本件除名の効力を停止するとともに、被申請人互助会に対し、申請人らがその会員として給付の請求、施設の利用その他の行使をなすことを妨げてはならない旨を命ずる必要があると認め、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大江健次郎 美山和義 竪山真一)

(別紙)

昭和三十二年十二月五日

福岡県職脱退者連絡協議会

各出先機関総務課長 殿

御依頼

同封の別紙脱退組合員と互助会の関係についての文書を職員全員に回覧の上必読するようお取り計らい願いたく、御依頼申し上げます。

福岡県職脱退者連絡協議会

◎ 県職脱退組合員と互助会の関係はどうなるか

県職本庁支部各部代表者会議の席上及び各職場において、県職執行委員が県職を脱退した職員は互助会員として互助会の利用は出来ないと説明しているので、このことについて事務当局である職員課課長補佐に質したところ、次のとおりであるから皆さんにお知らせ致します。

問 職組と互助会は同一のものであつて、職組執行委員によつて運営されているのか

答 互助会と職組とは、それぞれの事業目的の一部である職員の福利原生の増進という点については共通する面があるが、それぞれに別個の人格を有する団体であり、決して同一のものでなく、職組執行部によつて運営されているものでもない。

問 では何故職組幹部が組合脱退職員に互助会の利用はさせないとの暴言をはくと考えですか

答 互助会設立に当つて職組が尽力したことが、互助会は職組が作つたのだという過信を生み、このことが底流となつて誤つた言動をされているとしか考えられない、もし事実とすれば誠に遺憾なことと思う

互助会の会員としての資格は規約第六条によつて県職員となれば取得するもので、職組々合員でない県職員も会員として相当多数現存している事実から判断しても脱退即互助会員資格そう失ではないと考えられる

問 職組幹部が何を根拠として脱退職員は、互助会利用不能説をもちだしたとお考えですかか

答 それは多分互助会規約第七条第一項第四号の規定(四、評議員会の決定により資格をそう失したとき)によることだろうと思われるが、この規定はいづれの団体においてもとつている組織統制のための通有規定であつて、この解釈運用によつて他団体のために利用されるとすれば、互助会の運営に支障を来し、死命を制せられる重大なことにもなると考えられる

互助会の設立目的または社会通念上から考えても、職組を脱退したことが前記規定の適用行為とは思料されない。

以上のようなことであつて、県職幹部が事実脱退職員は互助利会用は出来ない、又は実力をもつてこれを拒絶するとのような言動をしているならば、目的のためには手段を選ばない暴力団と何等大差はない。

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